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最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)44号 判決

主文

原判決を破毀する。

被告人を懲役弐年六月に處する。

但し原審における未決勾留日數中百弐拾日を右本刑に算入する。

押収品中證第三號の腕時計弐個、同第四號の懐中一個、同第五號の短靴一足はこれを被害者に還付する。

理由

辯護人有吉実上告趣意第二點について。

原判決は所論證第一號の匕首を没収する理由として、同匕首は本件犯罪行為に供した物で犯人以外の者には屬しないから刑法第一九條によりこれを没収する旨説示したものである。しかし同匕首についてはその領置目録に、差出人及び所有者として第一審の相被告人小泉洪一と記載されてあるのみで同人に對する司法警察官の聽取書及び判事の訊問調書並びに第一審の公判調書における同人の供述記載によれば、右匕首の所有者は同人ではなく、被告人及びその共犯者以外の第三者たる高山某であること明白である。從って原判決が経験法則上首肯するに足るべき證據によることなく、漫然前記の如くこれを犯人以外の者に屬しないと認めたのは失當である。しかのみならず元来右匕首については第一審判決は小泉洪一に對してのみこれを没収したものであり、そしてその判決に對しては被告人並びにその辯護人からのみ控訴したものであるから原審においては刑訴第四〇三條の規定により右第一審判決の主刑を被告人のために軽く變更せざる限り更に附加刑として被告人に對し右匕首を没収する言渡をなすことができないものである。然るに原審は第一審と同一の主刑を言渡し、しかも没収すべからざる匕首の言渡をしたのは右刑訴第四〇三條の規定にも反するものである。本論旨は結局その理由があって原判決は破毀を免れない。(その他の上告論旨に對する判斷は省略する。)

以上の理由により刑訴第四四七條により原判決を破毀し、同法第四四八條により本件につき更に判決を為すに、原判決の確定した被告人の所為は刑法第六〇條第二三六條第一項に該當するところ、犯意繼續に係り、且つ所犯昭和二二年一一月一五日前の行為に屬するから同年法律第一二四號附則第四項により刑法第五五條をも適用し處斷すべきところ、犯罪の情状憫諒すべきものがあるから同法第六六條第七一條第六八條第三號に依り酌量減軽を為し、その刑期範圍内において、被告人を主文の刑に處し、同法第二一條に則り、原審の未決勾留日數中百二十日を本刑に算入し、押収品中主文掲記の物件は本件犯行に因って得た賍物で被害者に還付すべき理由明白であるから刑訴第三七三條第一項に則り被害者に還付すべきものとし、主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 岩松三郎)

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